フユシラズのタネの形の話


フユシラズ(冬不知)  キク科  
学名:Calendula arvensis

「フユシラズ」というのはニックネームのようなもので、晩秋-冬-春と長期間咲き続けるから「冬不知」。正式名は「ヒメキンセンカ」または「ホンキンセンカ」だとか。

フユシラズフユシラズ

フユシラズは一つの花から異なる形のタネが実ります。
どうして形が異なるのか、異なる形のタネを播くとどうなるのかを追跡してみました。
でも、結局ほとんど何もわからなかったのですが……。

フユシラズのタネ(痩果)フユシラズのタネ(痩果)フユシラズのタネ(痩果)
フユシラズのタネ(痩果)



(1)きっかけはディモルフォセカ

ディモルフォセカはアフリカ原産のキク科植物で、一つの花(厳密には頭状花序)から2種類の形の果実が実ります。(※ディモルフォセカ――「2つの形状の果実」の記事に詳細を書きました。)
この件を調べていて、フユシラズのタネも何通りかの形があるなぁ、と思い出したのでした。



(2)フユシラズのタネ

フユシラズは一度植えると、こぼれ種で増えて毎年ひとりでに育ってよく花を咲かせます。
9月ごろ、プランターのあちらこちらから勝手に芽吹くのを育つに任せるのもいいですし、小苗のうちにポリポットなどに植え替えても簡単に育つのですが、こぼれ落ちる前にタネを採取しておけば計画的に種蒔きできます。採取したタネは↓こちら。

フユシラズのタネ(痩果)

厳密に言うとタネではなく痩果という果実で、種子はこの中に入ってます。
前述したようにフユシラズは一つの花から異なる形の痩果が実り、痩果の形はおおまかに3タイプあります。

フユシラズのタネ(痩果)

 A キノコの傘のような膜状の痩果
 B 輪のように丸まった痩果
 C 鎌のような形で刺のある痩果

カッターを使って、それぞれの痩果の中にある種子を出してみると……
↓赤い丸の中が種子です。

フユシラズのタネ(痩果)

上手に出せなくて割れてしまったのもありますが、
3種類とも中に入っていたのは4〜6mmぐらいの三日月型の種子でした。

こぼれる前の痩果がこれ。

フユシラズのタネ(痩果)フユシラズのタネ(痩果)

フユシラズのタネ(痩果)フユシラズのタネ(痩果)

3タイプの痩果が一つの花から実っていることがわかります。



(3)フユシラズの花

フユシラズフユシラズ

じつは、一つの花に見えるものは「頭状花序」と呼ばれる多数の花の集合体です。
キク科植物の花はたいていこの頭状花序で、フユシラズもそう。
花びらに見える部分は「舌状花」、中心の蕊に見える部分は「管状花(または筒状花)」。2種類の花の集合体なんです。

フユシラズの花

フユシラズの花フユシラズの花

フユシラズの花フユシラズの花フユシラズの花

舌状花の痩果と管状花の痩果で形が違うのでは?
そう思ったのですが、2種類ではなく3種類なのはどうしてなんでしょう。

熟して落ちる前の緑色の痩果の付き方を見てみると……。

フユシラズの痩果フユシラズの痩果

フユシラズのタネ(痩果)フユシラズのタネ(痩果)

管状花が集まっていた中央部には痩果は実っておらず、子房の残骸だけが残っています。そして舌状花があった外縁部に3種類の痩果が実っています。なんか、予想してたのと違う……。

フユシラズの痩果フユシラズの痩果

もう少し若い痩果を見ても同じ。

フユシラズの痩果

 

バラした舌状花と管状花をもう一度見てみましょう。
舌状花の付け根にある子房は、すでに傘や鎌のような痩果の形をしていますが、

フユシラズの舌状花フユシラズの舌状花フユシラズの舌状花

管状花の子房は単純な棒状です。

フユシラズの管状花フユシラズの管状花フユシラズの管状花

そういえば、管状花のおしべからは花粉がたくさんこぼれていますが、めしべの柱頭はまだ中にかくれているか出たばかりで閉じた状態です。舌状花は二つに分かれためしべの柱頭が目立ち、おしべらしきものは見えません。管状花は雄花の役目を、舌状花は雌花の役目をしているのかもしれないと思いました。

フユシラズの舌状花と管状花

ということで、どうやら3種類の痩果はすべて舌状花から実ったように思われます。
あらかじめ3種類の形の果実が準備されているなんて。不思議というほかありません。

フユシラズではない、いわゆる普通のキンセンカの花は舌状花がとても多いですが、どんな痩果でしたっけ? これも後日調べてみます。
 ↓ ↓ ↓
2016年5月5日、キンセンカの痩果について、ブログにアップしました。
「キンセンカのタネ(果実)の形は一種類」

キンセンカの花



(4)3種類の痩果から育ったフユシラズ

痩果の形が異なると、そこから育つ株や花の姿も異なるでしょうか?
もしもそうなら、記事冒頭に書いたディモルフォセカの件と関連づけて考えることができるかも。そこで、3種類の痩果を別々なポリポットに蒔いて育ててみました。

発芽〜小苗の頃は [B 輪のように丸まった痩果] の生育が明らかに遅かったです。育つにつれてもっとハッキリと差が出てくるだろうと期待してそのときは撮影せずにいたのですが、その後徐々に差がなくなり、開花するころにはほとんど区別がつかないほどになってしまいました。花や葉、株全体の様子にも違いは感じられません。

3種類の痩果から育ったフユシラズ

そんなわけで結局のところ、3種類の痩果のどれを育てても同じようなフユシラズが育つということはわかりましたが、どうして形が異なるのかは不明なままです。いつかわかるんでしょうか。
ともあれ、今回試したことや観察したことをここに記録することとします。(2016年2月18日)

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